『The DevOps 逆転だ!究極の継続的デリバリー』(ジーン=キム、ケビン=ベア、ジョージ=スパッフォード著、榊原彰監修、長尾高弘訳)を読んだ。本書は小説の形でケーススタディを行いながらDevOpsとは何かを解説するものである。経済学でいうところの「もしドラ」のような本だ。友人が絶賛していたのでうっかりポチって読んだ。以下はその感想であり、当然のようにネタバレを含む。
IT運用部長である主人公が突然CEOに呼び出され、CIOに任命されるところから始まる。IT部門は腐りきっており、プロジェクトは常に炎上しているうえ、デプロイも毎回のようにトラブルを起こすような状態である。さらに事業部は気が狂ったような開発スケジュールを引いてくる。そのような状況の中、主人公は開発と運用が協力してシステムを作り上げるプロセス、いわゆるDevOpsを実現するという内容だ。ここで、この本の範囲は開発と運用のみ、すなわちいわゆるIT部門内部のみの環境改善にとどまらず、IT部門が事業の遂行と切りはなせない存在であることを認識し、IT部門と事業部の良い結合の道を探ることにまで及んでいることに注意する必要がある。
総じて面白かった。小説の形であったし、登場人物も個性豊かで楽しく読み進めることができた。特に現場の炎上している様子については臨場感があって良かった。僕にとって新鮮だったのは、主人公がIT運用担当であるところから、「開発者が敵」として書かれているところだ。この手のエンジニアの苦悩を書いた話は、(僕が読む範囲においては)開発者 vs 営業とか開発者 vs マネージャで、開発者の視点から書かれたものをよく読むので、逆に開発者が敵であるものは新鮮だった。
既に述べたように、本書はITの現場のプロセス改善について書かれたものだが、本質的にはモノづくりをする上で必要な生産管理について述べている。というのも、師匠となる人物が製造工場で行われている生産管理を何度も紹介した上で、そのたびに主人公の現場をどう改善することができるか主人公に問いかけていくという構成になっている。そのため、トヨタのカンバン方式や制約条件理論、あるいはクリティカルパス分析のような工場または一般的な生産管理で利用される方法論についても複数回にわたって触れられている。また、生産管理に関する他の書籍に対しての適切な参照もなされている。加えて、ITの分野で使われる用語については、この分野の人に対しては丁寧すぎるぐらいに注釈がなされている。以上の理由から、IT以外の分野の人にも、特に工程管理について興味のある人については広く勧めたい。
気になった点としては、翻訳が人を選びそうな点だ。原文に忠実に日本語に訳したという感じの翻訳であり、日本語としては間違っていないものの多少読んでいて引っかかる点があった。ただこれはスタイルの問題であり、これを好む人もいると思う。僕も最後のほうは慣れてきた。
翻訳を差し引いても総じて良い本だったのでここに紹介した。
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上記は紙の本であり、下記の電子書籍版も存在する。