本記事は法律や通達の解釈を含むが、筆者は法律の専門家ではない。もし記事に誤りや解釈の間違いがあった場合は @mecab まで指摘いただけると嬉しい。

概要

Superdry 極度乾燥(しなさい) や、日本国外で売られているコンバースの商品は、正規品であっても個人輸入すらできないという言説がある。これはぼくの解釈によれば間違いであり、業として輸入せず、個人的に使う限りであれば輸入することができる。

また、上記のような海外ブランドの正規品の輸入に限らず、偽ブランドでも同様に個人で利用する分には輸入できそうだ。両社とも税関で止められる可能性はあるが、適切な意見書を提出することで輸入は認められるだろう。

背景

元々この記事は半年前あたりに「オフホワイト コンバースを輸入したら税関に滅却されお金まで取られた話[1]」というブログ記事が話題になっていたころに書こうと思いながら調べたり構想を暖めておいたものだ。

調べたものの記事にせずそのまま忘れていたのだが、Superdry 極度乾燥(しなさい) も輸入できないというツイートがここ数日で話題になっていたので書くことにした。

Superdry 極度乾燥(しなさい)[2] (以下Superdry)は、間違った日本語、あるいは機械翻訳そのままの日本語を前面にあしらった衣類を売っているブランドである。とてもかっこいい。ぼくも一枚欲しい。

(Superdryのロゴ。 出典: JHenryW [GFDL or CC BY-SA 3.0], from Wikimedia Commons

さて、このクールなブランドだが、輸入差止申し立てリストに入っていると言われると確かに輸入できないような気がする。加えて、冒頭に書いたコンバースの件のブログによれば、

通関業者「こちらは輸入禁止物となっておりますので、滅却処分となります。必要な書類をメールで送付しますのでご確認いただき、送っていただきますようお願いします。」

と言われてしまい、悲しいことに最終的には滅却(破棄)させられたとのことで輸入するのは厳しそうにみえる。

しかし、調べてみたところ、上記はあくまで業として、すなわち販売やレンタル等を目的に輸入を行う場合の話であって、個人的な使用が目的ならば、税関で一時的に止められた場合でも、適切な申し立てを行うことで輸入できそうだ。ということが分かった。1) 輸入販売ができるか 2) 個人的な利用目的での輸入ができるか の両面で見ていこう。

1. 業として輸入を行うことができるか

まず、海外のコンバースやSuperdryの商品を業として売ることはできない。これはすでに多くのところで書かれているように、日本での商標権者が海外での商標権者と異なる上、そのような行為を許していないからだ。具体的には、Superdryは日本ではアサヒグループHDが商標を持っており、世界で例の服を展開しているSuperGroup plcとは当然異なる。このため、アサヒグループから許可を得ない限りSuperdryの衣服を輸入販売することはできない。アサヒグループの立場から見れば、SuperGroupが世界で勝手に偽物のSuperdryを売っているが、日本には輸入させたくないという感じだろうか。Superdryが衣服ではなくビールについていたらどうか。ということを考えると分かりやすい。

コンバースについてはやや複雑だが、日本では伊藤忠商事株式会社が商標を持っている一方で、海外ではConverse社が持っている。伊藤忠はConverse社[3]から商標を取得しているものの、実態として別会社であるため日本に海外のコンバースの靴を輸入して販売することはできない。伊藤忠から見れば、海外のコンバースはロゴは同じだけど知らない別の会社が勝手に作ったコンバースの靴だから輸入させたくないという形だ。詳細な経緯は別のサイトが詳しいので省略する[4]

両社は税関に知的財産の輸入差し止め申請を行っており、受理されている。このため、輸入する際に税関が該当する商品を見つけた場合、自動的に差し止められ、それぞれの会社に通知されるようだ。これもあって、コンバースやSuperdryを輸入すること自体ができないように思ってしまう。

2. 個人的な利用を目的に輸入することができるか

問題は、輸入が認められていない商標のついた商品を業として輸入することが知的財産の侵害であるとして禁止されている一方で、業として輸入しない場合は知的財産を侵害しないとされていることだ。

関税法第69条の11 を見ると、

(輸入してはならない貨物)
第六九条の一一 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。

...

九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

と書かれているが、これに関連する通達であるところの関税法基本通達第6章第7節 を見ると、

(知的財産の侵害とはならない物品)

69 の 11-6 知的財産の侵害とならないものとして、例えば次のような物品があるので留
意する。

⑴ 下記⑵以外の知的財産権については、業として輸入されるものでないもの

⑵ 著作権、著作隣接権については、国内において頒布する目的をもって輸入されるも
のでないもの

...

とされている。このため、業とせず、あくまで個人的な利用を目的に輸入を行うことは問題がないように思われる。

自説を補強するために、同様のことを説いているサイトをいくつか載せる。

まずは、スター綜合法律事務所のサイト内のコラム。法律事務所のものであり、信頼性は高いように思える。上にあげた関税法だけでなく、商標法の観点からも議論する必要があったようなのだが、どちらにしても業として使用しない場合は問題ないとのことだ。

商標法では,業として商品を生産し,証明し,又は譲渡する者が,商品について使用をするものを「商標」というと規定されています。

つまり,商標登録されたロゴなどが商品に付されている場合,「業」として使用する者のもとでは「商標」となるのですが,「業」として使用しない者,例えば,自分で使用することを目的としている者のもとでは「商標」ではないということです。

...

ですから,コピー商品であると知って海外からコピー商品を輸入した場合,輸入の目的が自分で使用する目的であった場合には,コピー商品に付されたロゴは「商標」ではなく,「商標」でない以上,輸入する行為が商標権を侵害することもありません。

つまり,商標法との関係では,自分で使用する目的でコピー商品を輸入しても問題ないということになるのです。

それでは,関税法との関係では,どうでしょうか。

...

関税法でも「商標権を侵害する」ということが前提になっており,先ほど説明したように,自分で使用する場合には,その人のもとではコピー商品に付されたロゴなどは「商標」ではありませんので,関税法との関係でも問題はありません。

海外のサイトからコピー商品を購入して輸入する場合に限らず,海外の実店舗で購入し,自分で日本に持ち込む場合も同様です。

「コピー商品」の購入は法律違反なの?|スター綜合法律事務所

 

こちらはコンバースのスニーカーについてまとめた記事。結論としては個人的な利用目的であれば問題ないとのことだが、本記事では簡単に書いた同じコンバースブランドでも輸入できない理由についても同記事の中でまとまっている。

個人で買ってきた場合も、没収されてしまうのだろうか?

「商標権侵害は、業として(商売として)の使用におよぶだけですので、個人利用のため一足二足買って帰るくらいなら、税関で没収されることはないと思います。

しかし、それ以上持ち帰ると、ヤフオクなどでの転売目的、つまり業として、と捉えられることもあると思いますので、没収されることもあるでしょう」

つまり、個人での持ち込みは、個人レベルで利用するならOKだが、転売目的だとダメだということだ。同じブランドとして世界で販売しているのに、ずいぶんと分かりにくい気がするが……。

アメリカで買った「コンバースのスニーカー、税関で没収される」は全くのデマではなかった | ハフポスト

税関で止められた場合どうするべきか

以上まで見てきたように、個人使用目的であれば問題なく輸入できそうだ。ただし、両ブランドとも知的財産の輸入差し止め申請が行われているため、税関で発見された場合には差し止められてしまう可能性がある。特に海外通販で買ったり、個人輸入代行サービスを利用した場合は特にこの可能性が高いだろう。実際に、冒頭で貼ったコンバースのケースでは差し止められている。このような場合、どうしたらいいのだろうか。

税関の 差止申立制度等の概要ページ に、この制度に関する概要があり、また観点する手続きの流れが図示してある。これによれば、荷物が止められ税関や運送業者から連絡された段階は「認定手続開始」された状況であろう。すなわち、「争う意思がある場合は10執務日以内にその旨を申し出」、「証拠・意見の提出」を行う、すなわち個人での利用が目的だと主張することで、輸入を無事終えることができそうだ。

実際に輸入を試みて成功した事例も発見したので掲載する。このケースでは、ニューバランス正規品と思って購入したところ偽物をつかまされた上、税関で止められるという悲しい事例だが、最終的に意見書を提出することで商品を無事(?)受け取った事例である(加えて、お店から返金もしてもらっているのでめでたしめでたし)。

なお、記事内では認定手続きにあたってニューバランス側が税関に提出した意見書の画像も掲載されている。

お手紙じゃなくて商品が届きました え~っ!

そして関税通関料合計1800円玄関先で取られました

どうやらコピー商品だというのは決定したようだし

郵便追跡に動きも無くて捨てられるんだとばかり思っていたから

商品がやって来たのはかなりの驚きで

偽物でも個人使用目的だったら本当に届けてもらえるんですね

日本の法律って変なの~。

税関保留中〜意見書提出〜商品到着まで | なおっち日記② 〜ラブラブログ〜

(技術上の制約から絵文字は引用時に省略した)

変なの~。

最後に

本記事では、コンバースやSuperdry、果ては偽ブランドについて、個人的な利用を目的とする限り輸入ができそうであることを各種の資料を示しながら見てきた。件のスニーカーの人も運送業者の言われるまま滅却するのではなく、税関に意見書を提出することで無事輸入することができなのではないだろうか。そう思うと切ない。特に異議申し立てをできないか聞いているにもかかわらず、業者側から他のオプションを提示されなかったようであるのがなお悲しい。本記事が似たような状況に置かれた人を救えることを祈る。

なお、ぼくにSuperdryのシャツを買わせたい場合、Bitcoin (BTC): 1E4F6BtphTrLLDeFu2zA63chx2EKJeUsB5 または Bitcoin Cash (BCH): qz8zt7qdx7uvqzxxnnwww4xnrvpqt2vs558kgm2v5d のいずれかに対して送金するとTシャツ代の足して有効に活用される。感謝します。


  1. 当該記事がドメインごと消えているので魚拓をリンク先にした。 ↩︎

  2. 公式サイトは http://www.supergroup.co.uk/ だが、日本からのアクセスがブロックされているためWikipediaの項目にリンクした。 ↩︎

  3. Converse社は2001年に一度破産しているが、伊藤忠は破産前の同社から商標を取得している。詳細は[4:1]を参照 ↩︎

  4. アメリカで買った「コンバースのスニーカー、税関で没収される」は全くのデマではなかった ↩︎ ↩︎