理化学研究所が「Society 5.0に向けた高性能計算科学研究支援及び研究者育成支援に関する寄附金」という寄付を募っている。これに 50,000 円以上の寄付をすると、特典として「京」コンピュータで使用されていたCPUを活用したグッズがもらえるとのことだったので、昨年 (2019年) の6月頃に寄付をしていた。

「京」は2019年は8月に運用を終了し、先日、後継機である富岳が TOP500 で1位になり、そして7月2日に CPU が届いた。

メルカリで適当に買ったジャンク CPU よろしく(失礼)プチプチにでも包まれて封筒で適当に届くかと思っていたのだが、段ボールの外箱の中には黒のかっこいい化粧箱が入っていて驚いた。

化粧箱

開けて白い半紙を外すと、「京」で使われた CPU であることを示す証明書を入れたファイルが。

証明書を入れたファイル

そしてその下には桐箱。
桐箱

桐箱を外すと... ジャジャーン。「京」の CPU。シリアルナンバーが入っており、僕のは 72 番。シリアルナンバーは申し込み順だろうか。2 桁台は嬉しい。

CPU本体

いやしかしかっこいいですね。本年のかっこいい梱包オブザイヤー(重言)でした。

桐箱とCPU本体

なお、ファイルの中には証明書の他に、京の概要と写真が載った紙と、お礼状、そして、無償譲渡をする旨の文書が入っていた。

弊所の資産として管理しておりました下記物品について無償譲渡いたします。

譲渡品目の物品

052012090372 スーパーコンピュータ「京」本体の一部

以上

国の機関の備品なのでこのような文書が入っているのだろうけど、何かエモくて良いですよね。

今回の特典で気持ちが高まったので、特に何もなくても今後も定期的に寄付していきたいと思う。この寄付は、特定寄附金として所得控除を受けられる上に、住んでいる場所によっては住民税の控除も受けられる [1] ので嬉しい。

なお、「Society 5.0に向けた高性能計算科学研究支援及び研究者育成支援に関する寄附金」 は 2021 年 3 月 31 日まで受け付けているので、CPU が欲しい人は寄付をすると良いだろう。執筆時点現在では、特典の発送は終了したと書かれていないので、まだ残っているのではないだろうか。また、「特に高額な寄附」をしてシステムボードや化粧板を手に入れるチャレンジをするのも楽しいだろう。化粧板は実際欲しい。化粧板を飾るスペースがある家も欲しい。

「京」とお金

HPC ガチ勢ではなくて直接的な恩恵を受けていないのもあり、「京」といえばやはり事業仕分けで「二番ではダメなのですか」と叩かれたことが思い浮かぶ。この発言に対しては軽薄な質問だった、的を射た質問だった、あるいは深遠な質問だった [2]と様々な意見があるが、個人的にはこういった大きくて熱くてシンボリックなプロジェクトには後先構わずじゃぶじゃぶお金を突っ込んだらいいんじゃないかなぁと思う。

ノイシュバンシュタイン城という城があって、この城は、ルートヴィヒ2世が自分の理想を具現化するために実用性を無視して豪華絢爛な外見にこだわり湯水のようにお金をつぎ込んで建てた城で、結果的に国の財政を圧迫し最後には王の座を追われる羽目になった。マジキチなプロジェクトだ。

タイタニックという船があって、この船も大金を投じて豪華絢爛に作られ、当時世界最大の客船となったが、処女航海で沈んでしまった。一晩で 1 億 5000 万ドルが溶けた残念なプロジェクトといえるだろう(ただし直接の原因は設計ではなくて事故 -- 設計に関しては沈没しにくいように作られていた なので、プロジェクト自体が残念なわけではない)。

しかし、今となってはノイシュバンシュタイン城は世界から多くの観光客が訪れるような場所となり、観光資源としてバイエルン州の経済を潤している。

ノイシュバンシュタイン城

ノイシュヴァンシュタイン城 - Wikipediaより引用。

タイタニックは映画・音楽・ミュージカルと様々な作品の題材として広まり、世界中に大きな経済効果を与えている。建造が行われた北アイルランド・ベルファストではタイタニック博物館ができ、ベルファストで1、2を争う観光スポットとなっている。

夜のタイタニック博物館

夜のタイタニック博物館。建物の高さは実際のタイタニックの高さで作られており、1階の少し浮いたようになっている部分の高さが喫水線になっている。大きい。

このように、大きくお金をつぎ込めば、例え失敗したとしても将来的に思いもよらない形で良い影響を与えてくれる気がするからだ。それがいつになるか、それこそ生きている間に起こるか分からないし、日本に直接的なメリットがある形で起こるかは分からないが。

例えばオリンピックの新国立競技場も、変にエコな形にせず元のザハ案のまま進めていれば、たとえオリンピックが中止になったとしても、ザハの遺作として語り継がれたものになった可能性が高いと考えると惜しいことをしたように感じる(人の死でブランドづけようとするなという批判はあると思う)。

このご時世、不景気とコンプライアンスコンプライアンスで国のお金の使い方が厳しくなるのは分かるが、「お金がかかりすぎる?財政が傾く?それがなんじゃー傾いたらそのとき考えればいいんじゃーードーン!!」みたいなのがあったほうが個人的には面白いなぁと思う。

とはいえ、面白いだけでしかないと言われればそれまでなので、俺がイーロンマスクになるしかない。(完)


  1. 独自の特典について/税法上の優遇措置について(PDF) ↩︎

  2. 「2位じゃダメなんでしょうか」のどこがダメなんでしょうか - 須藤靖|論座 - 朝日新聞社の言論サイト ↩︎