日本語の手紙においては、「拝啓」からはじまり、時候の挨拶に続いて内容を述べ、「敬具」で終わる、冗長かつ美しい形式がある。Eメールにおいてはこれらの表現は一般的には省略されることが多く、また省略することがマナーとされることもある[1][2]

おそらく、通信にかかるコストが高かった時代に由来するものだと思うし、インターネットが一般化し、安くなった現在においては日々大量のメールが届くようになってしまったため、簡潔なものが好まれるのは当然だろう。時代に伴いマナーや言葉は変化するものだろう。

しかし我々は失敗した。ビジネスメールの通例として「おつかれさまです」「よろしくお願いします」という中途半端な形式を生んでしまった。確かに時候の挨拶は消えた。しかし「おつかれさまです」「よろしくお願いします」は、もともとの「拝啓」「敬具」よりも長くなってしまったではないか。

何よりも大きな問題は、「おつかれさまです」「よろしくお願いします」の部分は定型句のようでありつつも、微妙にそうではなく、悩みやすいことだ。社会人の皆さまにおいては大体想像がつくと思うし、もしそうでなくても、前者については「メール おつかれさまです」の検索結果を眺めるとなんとなく想像がつくと思う。後者も、なにか物事を頼む場合はともかく、そうでないような連絡に、何がよろしくじゃという気持ちになる。

これらの定型文のようで実はそうでもない何かに悩むことに消費される時間の累計は相当なものであろう。Web上ではよく揶揄されているが、日立語を使ったほうがいいのではないかと思うこともある。多くの言い回しが定型化されている。リンク先から例文を引用しよう。

(佐藤)

> (スズ)B

>

> 毎々お世話になっております。K3Gの佐藤です。

> 首記の件、□□□□についての手配仕様書を頂きたく。

>

> -以上-

拝承。

日立用語 拝承!! より

かなりエッジが効いているし、常用するのは躊躇ってしまうが、確かに簡潔だ。

英語のメールでは始まりは"Hi xx,"で始まり本文、"Regards," "(自分の名前)"で終わる。シンプルだ[3]。やはり本質的に曖昧で冗長な[要出典] 日本語は、「「「グローバルなビジネス」」」 には向いていないのだろうか。

諦めてはいけない。そもそも日本語の手紙には、以上の問題をすべて吹き飛ばすものが存在する。「前略」そして「草々」だ。「前略」を使う場合、時候の挨拶は省略できる(するべきだ)[4]。このため、余計なものが4文字しかない文章ができる。

例文を見てみよう。

前略

先般弊店宅近所よりの出火に際しましては早速御丁重なお見舞いを頂き御厚志誠に有難く厚く御礼申し上げます。
お陰をもちまして類焼を免れ家族一同無事でおりますので御安心下さい。
早速拝眉の上御礼申し上げるべきところ略儀ながら書中をもって御礼申し上げます。

草々

挨拶状文例 より。改行を調整し句読点を挿入した。

例文が炎上(物理)しているのは悲しいが、簡潔であることこの上ない。用件のみ淡々と述べればいいし、余計なことに頭を悩ますこともない。

確かに、「前略」は目上の人や、親しくない人に対して失礼という話はあるが[4:1]、それを言い出すとメールでも「拝啓」と時候の挨拶を書くべきだという議論になってしまう。むしろ、「おつかれさまです」よりも古典的な書簡の書き方に叶っている[5]分丁寧ではないだろうか。

我々はEメールができた当初からこれらを使うべきだったのではないか。いや今からでも遅くはないはずだ。そうだ。「前略」「草々」を使おう。

なお、僕はすべてのメールに

前略

中略

後略

草々

と返信してビジネスを放棄したい。

-以上-


  1. http://www.akabiracci.or.jp/html/07_onepoint_mana-.html ↩︎

  2. https://gakumado.mynavi.jp/freshers/articles/34443 ↩︎

  3. 僕ネイティブじゃないから適当に書いてるけど、HiじゃなくてDearにするかとか、終わりをRegardsじゃなくて、Best regardsにするかとか、Sincerelyとかにするか、やっぱりネイティブだとこの辺色々迷うのかな...。 ↩︎

  4. http://allabout.co.jp/gm/gc/415582/ ↩︎ ↩︎

  5. http://template.41nv.com/173_1.html ↩︎